Mount Fuji tourism woman


はじめに

新型コロナウイルスによる観光業の打撃からおよそ2年。全国的な旅行需要の回復が進む中、地方観光地として注目される山梨県でも宿泊業界は大きな変容を迎えています。富士山や温泉地といった観光資源を持つ同県では観光客の増加と多様化に伴い旅館・ホテル・民宿の抱える課題も鮮明になっている現状があります。

本稿では観光庁・国交省など最新データに基づき山梨の宿泊業がどこまで回復しているか、外国人客の動向や稼働率、今後求められる宿泊空間の姿、そして太刀岡屋がその変化にどう寄与しているかを徹底リポートします。


山梨の宿泊観光はどこまで回復したか

最新の観光庁/国交省・宿泊旅行統計(2024年12月速報値)によると、山梨県の月間宿泊者数は663,310人に達し前年比で94.5%の回復となっています。2019年以前の水準に戻りつつあり明らかな復調が確認されます(出典:CEICデータベース)

そのうち外国人宿泊者数は236,680人で前年同期比110%超。最大値となった2024年8月の275,980人には及ばないものの高水準を維持。山梨の宿泊市場におけるインバウンド比率は約36%にまで引き上げられました 。

全国水準でも2024年上半期に訪日外国人は前年比57%増の1,778万人を記録し日本の宿泊・観光地全体に力強い回復の潮流が押し寄せています。

富士五湖や甲府など観光客集中エリアでは特に稼働率が上昇しており、全国平均の57%を超える数字が続いていることから山梨の宿泊業界回復は全国平均を上回るペースであるといえるでしょう。

章まとめ

  • 宿泊者数は2019年比94.5%に回復し約66万人を維持

  • 外国人比率は約36%と2024年から継続した高水準 

  • 全国的な観光回復の波に乗り富士五湖など主要観光地では稼働率好調



オーバーツーリズムの影と地域分散の取り組み

観光復活の流れは明るい話題として歓迎される一方で、山梨県内でも「観光客が集中しすぎること」による弊害が現れはじめています。とくに富士山エリアでは、いわゆるオーバーツーリズムが深刻な課題となりつつあります。

2024年富士山の山梨県側登山道において「マイカー規制」および「登山者数の上限設定」が施行されることが発表されました。山梨県の富士山登山対策協議会によると五合目へのマイカー通行は7月より完全予約制のシャトルバスに限定され登山者数は1日あたり4,000人までに制限される予定です(出典:山梨県 富士登山対策協議会 2024年5月発表)。

これは登山道の混雑だけでなく宿泊施設の許容量や周辺道路への負担を考慮したもの。実際に河口湖・山中湖エリアの旅館・ホテルでは週末や祝祭日夏期休暇中に予約が集中する傾向が顕著です。稼働率が70%を超える日がある一方、平日は30%台にまで落ち込む宿も少なくありません。

このアンバランスな需要に対し山梨県と観光業界は地域分散型観光の推進を始めています。

地域分散の実例

  • 甲府市エリアでは温泉旅館とワーケーション施設を連携し平日滞在型の宿泊需要を創出。首都圏企業のサテライトオフィスとしての利用が進んでいます

  • 北杜市・韮崎市方面では農業体験・星空観賞など自然アクティビティと一体になった宿泊プランが評価され家族旅行のリピート率が向上

  • 勝沼・塩山エリアではワイナリー巡りと古民家民宿がセットになったツアーが人気。外国人観光客のニーズにも対応しています

観光庁による2024年「訪日観光地域戦略プラン」でもオーバーツーリズム対策と地域分散を両立させることが最重要課題と明記されました。山梨における具体的取り組みは、全国の地方観光モデルとしても注目されています。

章まとめ

  • 富士山登山者の集中に伴い1日4,000人の制限など強い対策が導入予定

  • 河口湖など特定エリアの宿泊施設に予約が集中し平日との格差が拡大

  • 山梨県では各エリアごとに「滞在型」「体験型」「分散型」の受け入れ戦略が進行中

  • 全国的にも注目される地域分散モデルとして展開が期待されている



    高級ホテルと地元民宿その明暗とは?

    地域に観光客が戻る中で山梨の宿泊業界では高級ホテルと地元民宿のあいだに鮮明な格差が生まれています。

    インバウンド需要を見越した大型資本の参入が相次ぎ富士五湖周辺では星野リゾートをはじめとするラグジュアリーホテルやヴィラ型宿泊施設の新規開業が続いています。こうした施設は1泊5万円を超える宿泊単価でも安定した予約を得ており海外富裕層を中心に稼働率を維持しています。

    一方で家族経営や個人運営による民宿・小旅館の多くは予約数の不安定さや資金面での広告力不足に直面しているのが現実です。

    民宿の経営者からは次のような声が上がっています。

    • 「OTAの手数料が高すぎて利益が残らない」

    • 「リピーターを増やしたいがSNSやウェブ運用のノウハウがない」

    • 「清掃やリネン業務を家族だけで回すには限界がある」

    こうした課題に対応するため一部の民宿では予約管理の自動化システムやインスタグラムを活用した自走型PR”に挑戦しています。
    また、あえてOTA(旅行予約サイト)に依存しない「地域直販型の宿泊プラン」や、リピーター向けの独自サービス(宿泊者限定の畑体験、夜間の星空案内など)で独自色を打ち出す宿も増えています。


    顧客ニーズの分断と選ばれる民宿の条件

    観光庁が2024年に実施した調査では宿泊施設の選定理由として

    • 高級ホテル:ベッドやバスルームの快適さ、外国語対応、安心感

    • 民宿・旅館:接客の丁寧さ、地域文化とのつながり、特別感

    が挙げられました(出典:観光庁「宿泊施設の利用実態と評価調査2024」)

    つまり、民宿に求められるのは単なる価格競争ではなく「ここでしか得られない体験価値」を明確にすること。その軸を持つ宿にはSNS経由で若年層の旅行者や地方を好むインバウンド層が確実に反応しています。

    章まとめ

    • 山梨県内では高価格帯ホテルと地域民宿の二極化が進行中

    • 民宿経営は収益性・労働負担・広告力に課題が多く残る

    • 一方、体験型・地域密着型の民宿はリピーターを獲得し始めている

    • 選ばれる宿には価格以外の軸と明確なストーリーがある




    設備老朽化・後継者問題…経営者が直面する現実

    山梨県内には築数十年を超える老舗旅館や家族経営の民宿が数多く存在します。これらの施設は地域の観光文化を支えてきた存在ですが今まさに大きな転機を迎えています。

    旅館業法に基づく耐震・防火・衛生基準の見直しやバリアフリー化、Wi-Fi対応など現代の宿泊ニーズに応えるための改修コストは平均で500万円から1,000万円規模に上ることもあります(出典:中小企業基盤整備機構・観光庁補助金資料)。

    しかし地方宿泊業者の多くはこの投資に踏み切れず老朽化した設備のまま営業を続けているのが実情です。

    「後継者がいない」宿泊施設の閉業が増加中

    山梨県旅館業組合によると2023年には県内で31件の宿泊施設が事業停止・廃業となっています。その理由の多くが「後継者不在」でした。
    とくに民宿や小規模旅館では経営を親から引き継ぐ世代が都市部に流出しており、継ぐ人がいないまま空き施設化している例が増えています

    こうした状況を打破しようと地域によっては以下のような動きが見られます。

    • 地方創生型クラウドファンディングを活用した改修支援

    • 建築・インテリア業界との連携でリノベーション再生

    • 観光専門学校の卒業生をターゲットにした後継者育成プログラム

    一方で廃業した旅館を買い取り飲食店や体験施設へとリノベーションする動きも活発化しています。ワイナリー併設の元旅館や陶芸体験に特化した古民家施設などは東京圏の移住者によって再活用されている事例もあります。

     章まとめ

    • 山梨県内の旅館・民宿は築年数30年以上が大半を占める

    • 改修には高額な費用がかかる一方売上や資金余力に乏しい施設も多い

    • 後継者問題により2023年には31件の廃業が確認された

    • 地域連携・クラファン・移住者受け入れにより再活用の流れも始まっている



      旅行者が求める新しい宿泊体験とは

      山梨を訪れる観光客のスタイルはこの数年で確実に変化しています。かつては団体旅行や登山目的が主流でしたが今では個人旅行や少人数グループ、外国人観光客が主な客層となっています。

      その変化は宿泊施設に対するニーズにも大きく影響を及ぼしています。
      いま宿泊客はただ寝るための場所ではなく、過ごす時間そのものに意味を求めています。


      泊まるだけの宿から体験を得る場所へ

      観光庁が2024年に実施した訪日外国人旅行者調査によると旅行中に求める内容として特に多く挙げられたのは以下の項目です。

      • 自然の中で静かに過ごすこと

      • 地元文化を感じられる空間

      • 宿泊施設の設えや空気感そのもの

      • 宿の人との交流やおもてなしの所作

      出典:観光庁 訪日外国人旅行者の意識調査(2024年度版)

      これは国内旅行者にも共通しており、特にコロナ禍以降は「派手さではなく、落ち着きと質感を大切にしたい」という感覚が広がっています。

      選ばれる宿に共通する空間づくり

      宿泊レビューやSNS投稿から評価の高い宿の傾向を見ると次のような特徴が見えてきます。

      • 木や石、土など自然素材を用いた内装

      • 苔や山野草などを活かした落ち着いた演出

      • 小さな飾りや器にまで心配りがなされている

      • 部屋にいるだけで気持ちが整うような感覚

      こうした特徴を持つ宿では宿泊後の満足度だけでなくリピーター率の高さや紹介による新規顧客の流入も確認されています。

      つまり現代の宿泊者は建物の新しさや豪華さだけでな、宿全体がどれだけ心地よく「時間を過ごせる空間」として整っているかを敏感に感じ取っているのです。

      和の植物が空間価値を引き上げる

      中でも近年注目されているのが苔玉や流木などを用いた和の植物による空間演出です。

      苔は視覚的な癒し効果に加えて和室や自然を取り入れた建築と非常に相性が良く訪日外国人からも高い評価を得ています。

      • 静かで清潔感がある

      • 自然の中にいるような安心感がある

      • 日本の精神性や美意識を感じられる

      このような植物による演出は、設備投資や人員増強といった大きな負担をかけずとも、感性に訴える差別化を図る有効な手段になっています。

      章まとめ

      • 宿泊施設は今体験の場としての価値が問われている

      • 自然・空間・人との接点が重要な評価軸になっている

      • 苔や和植物による空間演出は費用対効果が高く感性に響く手段

      • 小規模宿でも工夫次第で「選ばれる宿」になれる時代が来ている



        山梨の宿泊業を支える空間演出の最前線──太刀岡屋が提供する緑の力

        観葉植物を飾るだけでは満たされない。宿泊施設の経営者が近年よく口にするそんな言葉があります。
        緑がほしい空間に落ち着きを与えたいでも日々の管理やコスト負担が心配。そのような課題に向き合う中で太刀岡屋の苔玉レンタルが山梨県内の旅館やホテルに広まりつつあります。

        苔玉の定期レンタルがもたらす安心と差別化

        太刀岡屋では富士五湖周辺・甲府エリア・山間の温泉地など、県内各地の宿泊施設に対して苔玉や栽木による空間演出を提供しています。

        • 宿泊ロビーや客室に合わせた設置とレイアウト調整

        • 四季に応じた演出の切り替えと交換

        • 専門スタッフによる補修・メンテナンス対応

        • 一点物の栽木によるVIP向けスペースの演出

        これらのサービスは外注のインテリア業者とは異なり苔専門の知識と表現手法に基づいた提案型であり宿側からも高く評価されています。

        旅館の声が物語る苔の力

        実際に導入された施設では宿泊客からの感想として次のような反応が集まっています。

        • チェックイン時に「苔があることで和んだ」と言われた

        • 海外からのゲストに「Japanese moss is beautiful」と褒められた

        • 小さな苔玉一つで、空間が格段に柔らかく感じられるようになった

        これらの感想はただの装飾ではなく苔という植物が持つ静けさと品のある存在感によって、宿泊体験の質を底上げしている証といえるでしょう。

        太刀岡屋Premiumという提案

        さらに太刀岡屋では法人・高級施設向けに月額制の苔玉空間演出プラン「Premium」を展開中です。

        • ハイグレードな苔を使用した9点セット構成

        • 月額5万5千円(税込)で設置から交換までを一括対応

        • 季節替えやイベント連動、契約一時休止にも柔軟に対応可能

        このプランは単なる装飾品ではなく宿泊者の記憶に残る演出の一部として苔を位置づけるという思想から生まれたものです。

        苔玉サブスクサービスのご案内はこちら


        まとめ 観光回復の中で選ばれる宿とは

        山梨県の宿泊業界は再び成長局面に入りました。月間60万人を超える宿泊者数、インバウンド回復、富士山人気の再燃といった背景は希望と同時に、課題も浮き彫りにしています。

        • 観光集中による混雑と地域間格差

        • 高価格帯ホテルと地元宿の二極化

        • 設備老朽化と後継者不在という構造的問題

        このような中で選ばれているのは意味のある体験を宿泊に添えてくれる施設です。
        この記事では2025年の本格的な観光シーズン到来を控え、確定した2024年のデータからいろいろな考察を行いました。
        また、恐縮ながら弊社のサービスに触れさせてもいただきました。

        苔玉や栽木といった小さな演出であってもそれが空間に静けさを与え、訪れる人の感性に触れるものであれば確実に評価され記憶に残る要素となります。

        太刀岡屋のような地元発の専門性を持つ存在と連携することで地方の宿泊施設でも無理なく魅力ある演出が実現可能です。

        宿は眠る場所から心を整える空間へ。
        これからの時代に選ばれる宿とはそうした感覚を大切にする場所なのかもしれません。



        THANKS

        画像:tmedia
        記事:tmedia(tachiokayaメディア)
        協力:太刀岡昇氏


        In the heart of Yamanashi’s quiet inns and moss-lined rooms, a new kind of hospitality is taking root—one that speaks not loudly, but deeply, to the soul.